パニック障害とは

「心臓がおかしい」「息ができない」「このまま倒れるかもしれない」――救急車を呼ぶほどの強烈な発作に襲われたのに、病院で検査を受けると「異常なし」と言われる。そんな経験をされた方は、パニック障害かもしれません。
身体に明らかな異常がないのに、激しい身体症状を伴う発作が繰り返し起こる。これがこの病気の特徴です。国内の有病率は約1%で、男性よりも女性に多く見られます。
困るのは発作そのものよりも、その後の生活への波及です。「あの場所でまた起きたら」という気持ちから電車や人混みを避けるようになり、行動範囲がじわじわと狭まっていきます。仕事を続けられなくなる方、外出そのものが難しくなる方もいて、放っておくと気分の落ち込みからうつ症状を併発することも少なくありません。早めに対処することで、確実に良くなっていく病気です。
パニック障害のサイン
患者さまが経験される症状は、大きく三段階で進んでいきます。
第一段階:発作そのもの
何の前触れもなく、突然心臓が激しく打ち始め、息苦しくなり、めまいや手足のしびれ、冷や汗が一気に襲ってきます。「自分は死ぬ」「気が狂ってしまう」という強烈な感覚を伴うこともあります。
症状のピークは10分ほど、長くても1時間以内には自然と落ち着きます。ただし、注意点として、高い場所や狭い空間など、特定の状況だけで起こる発作はパニック障害ではなく別の不安症と判断します。
第二段階:発作への恐れ
一度激しい発作を経験すると、「またあれが来るのではないか」という不安が頭から離れなくなります。発作が起きていない普段の時間にまで恐怖が広がり、「次はもっとひどいかも」「今度こそ死ぬかも」と気持ちが追い詰められていく――これを予期不安と呼びます。
第三段階:行動の制限
「電車の中で起きたら逃げ場がない」「混雑したスーパーで倒れたら恥ずかしい」。こうした想像が膨らみ、特定の場所や状況を避けるようになります。これが広場恐怖と呼ばれる状態です。
避ける対象は人によって違い、満員電車、高速道路、美容院、一人での遠出など多岐にわたります。進行すると家から出ること自体がつらくなり、社会的なつながりが細っていきます。なお、広場恐怖を伴わないタイプのパニック障害もあります。
二次的な影響
発作と不安の繰り返しは、生活全体の質を確実に削ります。眠るために飲酒量が増えたり、市販薬に頼ったりするケースもあり、別の問題を生む前に治療につなげることが大切です。
パニック障害の背景

完全な解明には至っていませんが、現時点では複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。
体質として持っているもの
血縁者にパニック障害の方がいると、発症する確率が上がることが研究で示されています。その血縁者の発症が若い時期だった場合、影響はより大きくなります。「親や兄弟が同じ症状で悩んでいた」という方は、もともとなりやすい体質を持っている可能性があります。
出来事の重なり
大切な人との別れ、転職、引っ越し、病気の経験――人生の節目で重なる精神的な負荷が、発症の引き金になることがあります。幼少期につらい経験をされた方や、長く喫煙してきた方も、発症リスクが高いと報告されています。
脳のしくみの誤作動
不安や恐怖を処理する脳の神経回路にうまく信号が伝わらず、本来出さなくていい「危険警報」を鳴らしてしまう――これが発作の正体だと考えられています。一度回路が誤作動を起こすと、同じパターンが繰り返されやすくなります。
パニック障害の見極め方
問診を通じて、次のような点を丁寧に確認していきます。
- 予測できないパニック発作が何度も起きているか
- 発作への不安や、それを避ける行動が1ヶ月以上続いているか
- 他の精神疾患による発作ではないか
- 身体の病気や薬の影響ではないか
似た症状を起こす別の病気との見分けも欠かせません。たとえば、心臓の不整脈や狭心症、甲状腺ホルモンが過剰になる病気、低血糖発作などは、パニック発作とよく似た症状を示します。また、カフェインや喫煙の取りすぎが原因になっていることもあります。PTSDのように、特定の出来事を思い出した時だけ発作が出る場合も、別の疾患として扱います。気になる症状があれば、自己判断せずまずは内科的な検査も含めた評価を受けることが安全です。
パニック障害へのアプローチ

治療は「考え方と行動を整える」「薬で症状を抑える」の二本立てで進めるのが基本です。症状を抱えたまま無理を続けると、回復に時間がかかるようになります。早い段階で専門医に相談してください。
考え方と行動を整える(認知行動療法)
発作のたびに「自分は弱い」「もう終わりだ」と極端な解釈をしてしまうクセを、対話の中でほぐしていきます。考え方が変わると、感じ方も変わっていきます。
並行して、苦手な場面に少しずつ慣れていく練習も行います。たとえば電車が怖い方なら、まず駅まで行く、次に一駅だけ乗る、というように段階を踏んで自信を積み上げていきます。
薬で症状を抑える
発作の頻度や強さを抑え、予期不安を和らげるために薬を活用します。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
気分の安定に関わるセロトニンの働きを助ける薬です。もともとはうつ病の治療薬として登場しましたが、パニック障害にも高い効果が認められています。飲み始めに眠気や胃の不快感が出ることがあるため、量を調整しながら慎重に進めます。
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬
不安や緊張をすばやく鎮める薬で、発作が出そうな時の「お守り」として頓服で使うのが一般的です。ただし、続けて使うと体が慣れてしまう性質があるため、長期での常用は避けます。眠気やふらつきが強い場合は別の薬に切り替えるなど、こまめに調整していきます。
パニック障害の対処法
しっかり治療すれば、発作のない状態まで戻れる病気です。とはいえ、無理を重ねれば再発の可能性もあります。回復後も自分なりのペースを保つことが、長く穏やかに過ごすコツです。
体に負担をかけない毎日を
発作を誘発しやすいカフェイン・アルコール・タバコは、量や頻度を見直しましょう。睡眠時間を確保し、起床と就寝のリズムを整えることも、自律神経の安定に直結します。完璧を目指すよりも、続けられる小さな習慣を積み重ねていくことが大切です。
周りの人にも知ってもらう
ご家族やパートナー、職場の方にこの病気のことを伝えておくと、いざという時の支えになります。「怠けているわけではない」「気合いで治るものではない」と理解してくれる人が近くにいるだけで、回復のスピードは変わってきます。
パニック障害は、正しい治療と少しの時間があれば必ず良くなる病気です。一人で抱え込まず、私たちと一緒に取り組んでいきましょう。

監修医師:狩野 彩宏(阿佐ヶ谷メンタルクリニック)
医学部卒業後、大学病院・総合病院での精神科臨床を経て、当院を開設。地域の心療内科として、患者さまお一人おひとりに寄り添う診療を心がけています。